はじめに
※この記事は、私の娘の経験を書いたものです。同じ診断名でも特性や困りごとは一人ひとり異なります。この記事は、私たち家族が経験した一例として読んでいただければと思います。
私の娘は、ADHDと自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けています。
娘のさまざまな特性の中で、家族が一番対応に悩んだのが「盗み」でした。
「盗む」という言葉はとても重く、親としてこの記事を書くことを迷いました。しかし、当時の私はどう対応すればいいのかわからず、本当に悩みました。同じような悩みを抱える親御さんの参考になればと思い、我が家で経験したことを書こうと思います。
今回は、娘の「盗み」に気づいた頃の出来事と、家族が「盗れない環境」を作ろうと考えるまでを書きます。
「盗み」はいつから始まったのかわからない
今振り返っても、娘がいつから物を盗るようになったのかはわかりません。
きっと私たち家族が気づいていなかっただけで、少しずつ繰り返され、やがて家族が「おかしい」と気づくほどになっていったのだと思います。
親として一番心配だったのは、この行動が社会に出れば犯罪になってしまうということでした。
行動範囲が広がるにつれ、娘自身が社会で生きづらくなってしまうのではないか。
その不安は、当時も、そして今も完全になくなったわけではありません。
診断前から見られた行動
診断前の小学校低学年の頃、娘は忘れ物やなくし物がとても多くありました。
「今度からこうしようね」と対策を考えても、その約束自体を忘れてしまい、実行できませんでした。
ある日、赤鉛筆をなくしたことがありました。
娘は「なくしたことがお母さんに知られたら怒られる」と思ったのでしょう。
兄の筆箱から赤鉛筆を取り、自分の筆箱へ入れていました。
兄が「赤鉛筆がない」と言っても、娘は知らないふりをします。
ところが、その赤鉛筆には兄の名前を書いた印が残っていました。
「これはお兄ちゃんの赤鉛筆じゃない?」
そう聞くと、「違う!私の!」と泣きながら必死に否定しました。
兄の印を見せると、ようやく自分の赤鉛筆がないことを認めました。
今思えば、人の物が欲しかったというより、「怒られたくない」「自分を守りたい」という気持ちから取ってしまった行動だったように思います。
もし赤鉛筆に印がなければ、私は娘の話を信じていたかもしれません。
それくらい、盗ったことを知られないように振る舞うことは上手でした。
肉じゃがをほとんど食べてしまった日
娘が小学4年生で診断を受けた頃の出来事です。
ある日、私は5人家族分の肉じゃがを鍋いっぱいに作っていました。
少しだけ家の外へ出て戻ってくると、夕食の時間になって鍋を開けた時には、肉じゃががほとんどなくなっていました。
家族全員に聞いても、誰も知りません。娘の服を見ると、肉じゃがの汁が点々と付いていました。
娘は肉じゃがが大好きでした。きっと少しだけ食べるつもりで鍋を開けたのでしょう。
でも、一度食べ始めると止められず、家族全員分をほとんど食べてしまったようでした。
しかも、鍋に直接手を入れて食べていたため、衛生面を考えると残った肉じゃがは家族は食べられません。
最後まで「私じゃない」と言っていましたが、服についた汁や手についた匂いから事実は明らかでした。
「嘘はついてほしくないこと。」
「この肉じゃがは家族みんなで食べる夕食だったこと。」
「全部食べてしまうと、ほかの家族は食べられなくなり困ること。」
私は感情的に怒るのではなく、事実をひとつずつ伝えました。
朝ごはんを食べたあとも…
当時は、多食も娘の症状のひとつでした。
私は子どもたちより早く仕事へ行くため、夕食用のご飯を炊飯器で保温したまま家を出ていました。
朝ごはんはしっかり食べてから送り出しています。
兄弟がリビングでテレビを見ている間に、娘だけがキッチンへ行き、しゃがみ込んでゴソゴソしていたそうです。
見に行くと、炊飯器からご飯を手づかみで食べていたそうです。
兄弟に見つかると、
「お母さんには言わないで。」そうお願いしていたと聞きました。
お腹が空いていたわけではありません。
この頃の娘には、多食という症状も重なっていました。
「多食」と言い切るまでには、試行錯誤がありました。足りないのかと食事量を増やすと尋常ではない量をすべて食べますが、時に食べ過ぎて吐くこともありました。
娘は言わないので勝手な私の想像ですが、小学4年生頃になると、友達関係のなかでうまく言語化できない娘なりのストレスがあったのかもしれません。このころ、自分の腕や足を自分で引っ掻き、傷が増えるのと同じように「食べる」ことで何かを解消しようとしていたのかもしれません。
医師に相談してみると
3か月に一度の診察では、娘自身は「困っていることはない」と話すため、診察のほとんどは親である私の相談になっていました。
兄弟の物を取ることや、食べ物を隠れて食べることなどを医師に相談すると、
「盗ることが常態化していますね。」と言われました。
そして、このような行動がみられるお子さんもいることを教えてもらいました。
ただ、具体的な対応方法についての提案は特にありませんでした。
そこで私は、
「例えば『キッチンには1人で入らない』という約束をしてもいいのでしょうか。」と質問しました。
医師から返ってきたのは、「万全ではないけれど、やってみてもいいかもしれません。」
という言葉でした。私は自分で質問してみたものの、3人いる子ども1人だけ「キッチン・2階には1人で行かない」というルールを作るのは本人は嫌な気持ちがするのではないか・・・と躊躇していたら、医師からは「家族の日常生活に支障をきたしてしまうので、それは本人のためでもあるし、色んなものを盗っていくと家族が困るからこうしているということを、つど本人に説明していくことが大事だと思う」という話を受け、やってみようと決めました。
私は、「食べたいなら『食べたい』と言ってほしい」「こそこそ物色するようなことをやめてほしい」と強く思っていました。
何よりも、家の中で「盗る」という行動を習慣にしてほしくありませんでした。
だからこそ、娘を責め続けるのではなく、「盗れない環境」を作ろうと思いました。その後、家族で話し合い、娘にも理由を説明したうえで、家庭の中にルールを作ることにしました。
次回は、そのルールの内容と、中学生になってからさらに深刻になった「お金」の問題について書きたいと思います。

