【自閉スペクトラム症】「盗れない環境」を家族で作った話と、中学生から始まったお金の問題【後編】

※この記事は、私の娘の経験を書いたものです。同じ診断名でも特性や困りごとは一人ひとり異なります。この記事は、私たち家族が経験した一例として読んでいただければと思います。

家族で決めた「盗れない環境」を作るためのルール

医師に相談したあと、私は「盗る」という行動を叱るのではなく、「盗れない環境」を作りたいと考えました。娘を泥棒にしたくなかった。

娘には、最初に理由を説明しました。

「○○には、思いついたことを我慢することが難しい特性があるよね。それは自分の力だけでは止めにくいこともある。だから、お母さんは○○を責めたいんじゃなくて、盗るという行動をしなくてすむように環境を整えたいと思っている。そのために、家族で約束を作ろう。」

そう話したうえで、我が家では3つのルールを決めました。

・お父さん、お母さんがリビングにいない時は、1人でキッチンに入らない。用事がある時は兄弟に伝えること。

・○○の持ち物は決められたボックスに入れる。ボックス以外にある物は自分の物ではないので触らないこと。

・2階へ行く時は1人で行かず、誰かに声を掛けて一緒に行くこと。

2階のルールを作ったのは、兄や弟の部屋へ1人で入り、物を持ってきてしまうことを防ぐためでした。

もちろん、親が見ていなければ約束は守れないこともあります。それでも、「家族の約束」として繰り返し伝え続けました。

家族みんなで協力した毎日

夫婦共働きだったため、子どもたちの方が先に帰宅する日もありました。

しかし、娘は鍵をなくしてしまう可能性が高いと考え、鍵は持たせませんでした。

娘にも理由を説明し、誰が先に帰宅できるのか、家族全員で予定を確認しながら「娘が家に入れない状況」を作らないよう協力していました。

日々家族の予定を確認・把握・お願いをして協力しあいました。

中学生になって始まった「お金」の問題

家庭内でのルールを続けていましたが、中学生になると新たな問題が起こりました。

家族のお金を盗るようになったのです。

私は、どこかで「お金だけはとらないだろう」と思っていました。というよりも家族のお金を盗るという行動の想像をしてませんでした。

だから前からあったのに気づかなかった、気づくのが遅れたのかもしれません。

ある日、高校生だった息子が、

「テーブルに置いていた財布から5,000円がなくなった。」と言いました。

私は娘を責めるのではなく、落ち着いて話をしました。

「正直に話してほしい。怒らないから。」

娘は最初、「知らない」と言いました。

でも、そのあとすぐに「盗った」と認めてくれました。

私はまず、「正直に話してくれてありがとう。」と伝えました。私は、その言葉を伝えながらも、胸の中では複雑でした。盗ったことは悲しかった。でも、嘘をつき続けるのではなく、自分から認めてくれたことは、それ以上に大切だと思う気持ちもありました。必死に表情は作りました。だけど、家庭でのルールを作っても、それは建前的で守られていることはなかった事実も、安全と思われる家庭のなかで妹からお金を盗られた兄の気持ちも、それを聞く弟の気持ちも、想像していなかっただけに悲しい気持ちでいっぱいでした。

そのあと、娘がイメージしやすいように、娘の財布からお金を取り出す真似をしながら、

「もし自分のお財布からお金がなくなったら、どんな気持ちになる?」

と聞くと、「嫌な気持ち。」と答えました。

私は、「そうだよね。きっとお兄ちゃんも悲しかったと思うよ。」と伝えました。

そして、

「家族のお金でも、人のお金を盗ることはしてはいけないこと。学校や社会で同じことをすれば警察が関わることもある。」という事実も伝えました。

娘のお財布にお金が入っていなかったわけではありません。おこづかいをあげていなかったわけでもありません。

「財布がある。」「いくら入ってるのかな。」「5,000円ある。」「欲しい。」

その瞬間の衝動が、理性より先に動いてしまう。

私は、それも娘の特性のひとつだったのではないかと感じています。

だからといって、許される行動ではありません。

親として、「してはいけないこと」を伝え続けるしかありませんでした。

財布や貴重品の管理も変えた

この出来事を家族全員で共有し、「盗る」という行動をさせないために財布の管理方法も変えました。

財布は必ず自分のそばに置く。席を離れる時は鍵のかかる場所へしまう。

私自身も通帳や現金などの貴重品は一つにまとめ、家を出る時は必ず持ち歩くようになりました。

娘は、「気になる」と思った瞬間に行動へ移ることがありました。

私が少し席を外した時や犬の散歩に出ている間など、短い時間でも家の中のものを物色をしていました。

ある日、「あと何円足りないな。」という家族の会話を聞くと、

「あの引き出しの○色のポーチに○円あるよ。」と教えてくれたことがあります。お金だけでなく、何かの持ち物を探している時も、ルール的には自分の持ち物以外は触らないことになっているのに、良かれと思って持ち物の場所を教えてくれることが多々ありました。

その時、私は「約束を守れている」と思っていても、実際には家の中を見て回っていることを確信しました。

それ以来、リビングやキッチンには、なくなって家族が困る物は置かないよう心掛けるようになりました。

学校とも情報を共有した

お金を盗る行動があったことは、中学校にも伝えました。

娘にも、「先生と共有するね。学校でも見守ってほしいからだよ。」と理由を説明してから話をしました。

担任の先生は、娘の様子を気にかけてくださいました。

また、親が買っていない文房具を持ち帰った時には担任に連絡をし、持ち主へ返す対応をしてくださいました。

可愛い、流行りのものではなく、塾の名前が書いてあるようなシャープペンシルを持ち帰った時に、娘に理由を聞くと、「使ってみたかった。」と言ったことがあります。

可愛いとか流行ってるとかそういうことではなくて、自分が持っていない物を見ると、「どんな書き味なんだろう」と思い、誰かの机にあった持ち物を手に取ってしまう。

その気持ちを担任の先生とも共有し、一緒に見守っていただきました。

高校で感じた現実

高校1年生の時、担任の先生から保護者だけ呼ばれたことがありました。

空き教室でお金がなくなる出来事があり、その時にその空き教室へ入った生徒が2人いたそうです。

その1人が娘でした。

確かな証拠はなく、犯人とは断定できないため、本人には伝えていないとのことでした。

先生は、「関与している可能性が高いことだけは、お母さんに知っておいてほしい。」

と話してくださいました。担任の先生から話を聞いた帰り道、私は「やっぱり来たか」という思いと、「どうか娘が盗っていませんように」という思いが入り混じっていました。

私は娘にもこの出来事を伝えました。

娘は、「私が盗ったと思われてるの?」と聞きました。

私は、

「先生から聞いたままを伝えているよ。でも、入らなくていい教室に自分が入ったことを誰かが見ていて、その教室でお金がなくなれば、たとえ盗っていなくても疑われることがある。」と話しました。

疑われない行動をすることも、大切なことだと知ってほしかったからです。

今も親として願っていること

中学生になる頃には、多食はほとんど見られなくなりました。

しかし、「盗る」という行動への心配はなくなりませんでした。

私は、「ASDだから盗む」とは思っていません。

娘には、盗ってはいけない事だと頭ではわかっていても、欲しいと思った瞬間の衝動を抑えることや、その時に相手の気持ちを想像することが難しい特性がありました。その特性が、「盗る」という行動につながっていたのだと私は感じています。

だからこそ、叱るだけではなく、「盗れない環境」を作ることが家族にできる支援だったと思っています。

社会に出れば、家庭のように環境を整えてくれる人はいません。

だから今でも心配はあります。

もし娘が自分の行動によって責任を問われる日が来れば、それを受けとめるのは娘自身です。

親としてできることには限界があります。

それでも私は、娘が人を傷つけることなく、自分の人生を歩んでくれることを願いながら、今日も静かに見守っています。

中学3年生頃、2階の部屋を使うことにしました

この記事を書いたあと、当時の生活について、もう一つ補足しておきたいことがあります。

娘は中学3年生頃から、2階の部屋を使うことになりました。

2階には息子2人の部屋もあります。

家族で話し合い、これまでのことを踏まえて、息子たちの大切な物を守るために、息子2人の部屋には簡易的な鍵をつけることにしました。

一方、娘の部屋には鍵をつけませんでした。

これは、娘を疑っているからというより、これ以上「盗られるかもしれない」「盗ったのではないか」と家族がお互いに疑う状況をできるだけ作らないための環境調整でした。

娘には、なぜ息子たちの部屋に鍵をつけるのかも説明しました。

「お母さんも、あなたのことを疑いたくない。あなたも、家族から疑われていると思いながら生活するのは嫌だと思う。だから、2階の部屋を使うにあたって、家族みんなが安心して過ごせるように、こういう方法にしよう」

そんな話をして、2階の部屋を使うときの約束を決めました。

鍵をつければ問題が解決するわけではありません。

でも、本人の意思だけに任せるのではなく、家族の物を守れる環境を作ることも、本人を責め続けないためには必要なことだと考えました。

「盗らないで」と何度も言い続けるよりも、そもそもトラブルが起こりにくい環境を作る。

我が家では、その方法を選びました。

同じような悩みを持つ方に、我が家では息子たちの部屋にどのような鍵をつけたのか、参考までにご紹介します。


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